読書の森

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いま関係人口がおもしろい。移住でも観光でもない新しい地方との関わり方「関係人口をつくる」を読んで思ったこと

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こんにちは、本貴典(ほんたかのり) @dokusho_mori です。

 

最近、地方創生に関するニュースが多く見られます。2014年の増田レポートから、イケダハヤトさんの高知移住、岡山県西粟倉村のICOなど、地方に関する話題は事欠きません。

人口減少に悩む地方自治体はどこも移住・定住を促進し、自治体間でヒトの奪い合いと言ってもいい状況が生まれています。

そんな中新しい概念として生まれたのが、「関係人口」。これまでの地方への策として行われていた、「定住人口」を増やす、「交流人口」を増やす、以外の新しい概念として注目されています。

 

関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション

関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション

 


総務省の研究会の中間とりまとめにも注目すべきキーワードとして盛り込まれたり、現場レベルでも各地で活躍するイノベーターが、関係人口こそが重要だと唱え始めたりしています。でもまだ、この言葉は生まれたばかり。いまなぜ関係人口なのか、具体的にどんなものを指しているのか。そして、どうやってつくったらいいのか。この3つの問いに答えようとしているのが、この本です。(本文抜粋)


本書がとてもおもしろかったので、思ったことをまとめてみました。

 

著者 田中輝美さんとは

著者は、田中輝美さん、

ローカルジャーナリスト。島根県浜田市出身。大阪打学文学部卒業後、山陰中央新報社に入社し、ふるさとで働く喜びに目覚める。報道記者として、政治、医療、教育、地域づくり、定住・UIターンなど幅広い分野を担当。琉球新報社との合同企画「巡りの海ー竹島と尖閣」で2013年日本新聞協会賞受賞。2014年秋、同社を退職して独立、島根を拠点に活動している。

ほとんどのジャーナリストが東京や大阪など都市にいるなか、島根から情報を発信する「ローカルジャーナリスト」という肩書を自らつくり、本書を出版することになります。

 

関係人口とはなにか

そもそも関係人口とはなんなのでしょうか。

関係人口とは、住んでいなくても、地域に多様に関わる人々=仲間のことです。例えば、定期的に足を運び、特産品を買ってくれる。離れていても、地域のファンであり、ともに盛り上げてくれる。きっとどの地域にもいますよね。
「定住人口」=その地域に住む人の数
「交流人口」=短期的に訪れる人の数
でもない新しい人口の考え方のことをいいます。

 

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(出展:総務省, これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会, http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei08_02000136.html

 

現状の地域との関わりと、地域との関わりへの想いの両軸で、交流人口より強く定住人口より弱い、というのが関係人口であり、関わり方は段階的になっています。

 

 

なぜいま関係人口

そもそもなぜ関係人口の重要性が叫ばれているのでしょうか。

その理由はおおよそ、

  1. 人口減少による移住政策の限界
  2. 地域の役に立ちたいという都市側のニーズと、住んでもらいたいという地方側のニーズのミスマッチが生む軋轢
  3. 地域側の受け入れの負担

の3つが考えられます。

これまでの地方への施策に対して、移住・定住と交流・観光だけでは限界があり、その間の概念として関係人口が注目されているのです。

しかし、関係人口はいきなりつくることはできません。
観光地に行くと、観光情報を教えてくれる観光案内所があるように、関係人口においても「関係案内所」のような機能が必要だといいます。地域の面白い人や面白い人に出会えるスポットだけでなく、地域ではこんなことが求められているということなどの関わり方を案内するような機能です。
島根県のしまコトアカデミーが関係案内所としての機能を有していると本書ではいいます。

東京在住者を対象に島根や地域づくりについて学べる講座で、もともと地域に関わりを持ちたい・役に立ちたいと思っていた人ばかりではなかったのですが、結果的に移住につながっている人もかなり多いというのが現状です。

 

関係人口の今後についての仮説と課題

そんな関係人口ですが、課題はないのでしょうか。関係人口の今後を考えてみます。

 

自治体間の格差

今後ありそうなこととして、地方自治体間の格差が生まれてしまうということ。これまでの移住と違って、関係人口の場合は1人がいくつもの地域と関係を持つことができるので、パイの奪い合いにならないということを本書で述べられていましたが、それでも関係人口として一人の人間が10の地域と関係を持っていくということは考えづらいです。

今現在、移住・定住を地方自治体間で争っている状況がありますが、今後関係人口の概念が広まっていくと、関係人口の争奪戦のようになることも考えられます。

 

行政主導による制約

現在、関係人口で重要とされるコミュニティ形成、これは今流行のオンラインサロンで行われているものと近いと思います。そうすると、本書でいうところの関係案内所やコミュニティマネージャーのような存在が重要になってきます。


関係人口に取り組むのは地方自治体が多いと思われるので、スピード感やサロン会員による自発的な熱狂を生み出すことは難しく、場合によってはその活動に制約をかけてしまうこともあるのではないかということが懸念されます。


どのように自治体がどのように権限移譲をしていくのか整備をしていく必要があるのではないかと思います。

 

世田谷区は地方交付税の不交付団体のためふるさと納税によって40億円の減収につながったといいます。

kaikeizine.jp

 

ふるさと納税でもお金が集まるところには集まり、集まらないところには集まらない、というように自治体間に格差が生まれています。

前述のとおり、移住定住や、関係人口すらも同じようになる可能性は高いでしょう。

 

移住・定住と交流の間に関係人口という概念が生まれたように、関係人口と移住・定住の間や、関係人口をがもう少し細かいセグメントに分かれるようになり、それに対応して対策がとられるようになってくるのかもしれません。

 

いずれにしろ、「関係人口」、今後に注目です。

関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション

関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション